【気象予報士】使ってはいけない? 「テーパリングクラウド」問題
こんにちは。
気象予報士試験に独学で合格した、現役東大生のゆきまるです。
今回は気象予報士試験にも出てくる、「テーパリングクラウド」についてお話ししようと思います。
テキストや気象関連の本で見かける「テーパリングクラウド」という単語ですが、実は、この単語は使わない方がよいという意見があります。
その理由と、気象予報士試験における「テーパリングクラウド」の扱いを紹介しようと思います。
「テーパリングクラウド」とは
「テーパリングクラウド」とは、以下のようなものです。
下層の顕著な収束帯のある場所で対流セルが継続的に発生し,セルが風下に流されている間に積乱雲に発達し,雲帯の幅が増大していくというプロセスが長時間繰り返されて出来た雲帯
小倉義光『テーパリングクラウドという名称について』
上図の衛星画像(出典:高知大学気象情報頁)の赤丸で示したものが「テーパリングクラウド」です。下層に湿った空気、中上層に乾燥した空気があるという、大気の成層状態が悪い状況において、下層で暖かく湿った空気が収束し、積雲が発生し、さらに発達して積乱雲になります。そして積乱雲は西風に流され、さらに発達を続けることで積乱雲群の幅はどんどん大きくなります。このため「テーパリングクラウド」は、三角形で、人参や毛筆のような形状をしています。
また、積乱雲1つの寿命は短いですが、積乱雲が次々と発生し、集団になっている「テーパリングクラウド」の寿命はより長く、数時間程度になります。よって、激しい雨や突風などに十分に注意する必要があります。
「テーパリングクラウド」問題
さて、冒頭で述べたように実は「テーパリングクラウド」という用語は使用しない方がよい、という意見があります。それはなぜでしょうか。
端的に表現していらっしゃるのが、学科試験(一般知識)の教材の記事でも紹介した名著、『一般気象学』の作者の小倉先生です。以下が先生の記事の引用になります。
もともとtaperという動詞は,手元のウェブスター辞書によると,to decrease gradually in width or thicknessである. 衛星赤外雲画像で見れば ,確かに風上に向かって幅が狭くなっている雲帯である. だからtapering cloudを訳せば先細りの雲となるだろう. しかし実情は,…(中略)…先細りでなくて,末広がりの雲である. つまり,バックビルディングのメソ対流系に他ならない
小倉義光『テーパリングクラウドという名称について』
つまり、テーパ(taper)とは、「幅や厚さが徐々に減少する」ということです。なので、「テーパリングクラウド」は先細りの雲という意味になります。
確かに三角形の形をしている、という観点だけなら「テーパリングクラウド」でも問題ないでしょう。しかし、その成因は先程も述べたように、雲が風上から風下へ流される間に発達して幅が広がるというものです。なので、先細りの雲ではなく、末広がりの雲が正しい表現である、ということです。記事中で、最後に先生は以下のようにおっしゃっています。
要するに, にんじん状(carrot-shaped)雲,筆の穂先雲,V字型雲,バックビルディング雲,どれでもよいが,テーパリングクラウドだけは使用しない方がいいのではないかという提案である
小倉義光『テーパリングクラウドという名称について』
今回の件に限らずに、きちんと意味を考えて言葉を使わなければいけませんね。
気象庁のホームページには…
さて、実は気象庁の天気予報等で用いる用語のページでも、「テーパリングクラウド」について触れられています。
「テーパリングクラウド」の欄には、「使用を控える用語」である×マークがついています。代わりに「にんじん状の雲」を使うように促されていますね。やはり「テーパリングクラウド」は使わない方がよさそうです。
気象予報士試験での「テーパリングクラウド」の扱い
実は気象予報士試験の問題文中に「テーパリングクラウド」という単語が記載されたことがあります(第46回気象予報士試験の学科試験(専門知識)など)。もし実技試験の問題文中に「テーパリングクラウド」という単語が出てきた場合、記述の解答には問題文に則って、「テーパリングクラウド」を使った方がよいかもしれません。
しかし問題文中に「テーパリングクラウド」が出てこない場合、別の用語を使ってよいと思います。気象庁のホームページにものっており、小倉先生も言及していらっしゃるにんじん状の雲などを使うとよさそうですね。
さて、私の個人的なおすすめは「人参雲」です。「人参雲」であれば、字数をわずか3文字に抑えられるので、解答に字数指定のある気象予報士試験の実技試験でも有用だと思うのですが、いかがでしょうか。
まとめ
今回は「テーパリングクラウド」を巡る問題についてお話ししました。
- 「テーパリングクラウド」は使わない方がよいのではないか
- 「にんじん状の雲」などの表現が適切か
- 「にんじん状の雲」は、下層で暖湿気が収束し、生じた積乱雲が発達しながら風に流されてできる、「末広がりの雲」であり、激しい雨や突風にも注意する必要がある
- ゆきまるの個人的なおすすめ表現は「人参雲」
最後までお読みくださり、ありがとうございました。